死んでホトケになるか
おいらは虎魚。
虎の魚と書いておこぜと読む。しがない魚だ。
死んだらホトケになるという。しかし、死んで「ホトケ」などと呼ばれることを迷惑に思った者は、昔から多いはずである。ホトケになるとは、遥か西方十万億土の彼方の極楽浄土に行くと言うことだ。日本人の志としては、たとえ肉体は朽ちて跡なくなってしまおうとも、この国土との縁は絶たず、毎年日を定めて子孫の家と行き通い、幼いものの段々に世に出て働く様子を見たいと思っていたろうに、最後は「成仏(死後仏になること)」であり、「出て戻る(この世に戻ってくる)」のは心得違いででもあるかのごとく、頻りに遠い所へ送りつけようとするのはいかがか。
この国では死んだ者がひょっこり出てきても不思議はなかった。死んだら先祖となり家をまもり、子孫を見守る。仏教を信仰し念仏を唱えて死んだら極楽浄土を願いながら、盆正月には帰ってくる気で居る。生まれ変わるつもりもある。死んでからも忙しいこった、身体が一つでは足りんな。
虎魚
虎魚おすすめ書 先祖の話 | 柳田國男