海で千年、山で千年、里で千年
おいらは虎魚だ。
虎の魚と書いておこぜと読む。
おまいさんは、ヌシとはなにか知っておるか。
ヌシとは長い間同じところに住み続けて並外れて大きくなった生き物のことだ。長い間生き続けるうちにだんだんと霊力を持ちヌシになっていくのだそう。山や川、家屋などに住み着きその場所を支配するんだと。条件は五つだ。
一、ひとつところに長く棲む
一、棲みかが淀んでおる
一、その場から離れぬ
一、変わった相
一、神通力
てなもんだ。
なんてったって、おいらは神通力がほしいんだ。
わけを聞いてくれるかい。おいらがある日、山に連れられて行ってみれば岩魚や鯉どもが、おいらに向かって醜いだなんだと言いやがる。おいらを連れてる男が「虎魚は山の神さんの好物でお供えもんの高級魚」と言ってたのをしっかと聞いてたおいらは「醜くなんかねえやい。虎魚のおいらは山の神さんのお気に入りだい」ってことで大喧嘩になったんだ。ちょっと鯉や岩魚のヌシ様が多いからって、自分も偉くなった気で居やがるんだ。虎魚だあっていつか天昇りをやれるってことを鯉や岩魚の川魚のどもにみせてやるんだ。
そういうことでおいらはしがない虎魚だが、負けず嫌いには輪をかけて力いっぱい締めた長褌なもんで、ヌシになるために修業をすることにした。
ヌシになる修業には「海で千年、山で千年、里で千年」の修業が欠かせないそうで、こうやって里まで来てみた次第です。
自分語りが長くなりましたが、畜生の身ながら読み書きを覚えましたので、皆々様のお好きな書など勧めていただけるとすぐ読みましょう。
どうぞよろしく。
虎魚
虎魚おすすめ書 ヌシ 神か妖怪か|伊藤龍平